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2話-1 晩ご飯の味。

last update Huling Na-update: 2025-03-21 15:55:41

お互いの顔がはっきりと見えると、エルバートは冷酷な表情を崩さず、口を開く。

「晩飯を作れ」

「まず今日はビーフシチューだ」

「そして」

「これからは私の事をご主人さまと呼べ」

「かしこまりました」

フェリシアは、命令を受け入れ、ただただ一礼をする。

エルバートに尽すことを心に強く誓いながら。

「では、時間が来るまでゆっくり休め」

エルバートにそう冷たく言われたフェリシアは、すぐさま、案内人に部屋へと案内される。

そして、

初めて見る、

自分には勿体ないほどの上等な部屋。

一人きりになったフェリシアは持ってきていた両親の割れた形見のブローチをぎゅっと胸に抱き、落胆する。

最初から分かっていたことだったけれど。

(ここでもわたしは奴隷扱いなのね……)

* * *

その夜、食事室の椅子に座るエルバートに晩ご飯のビーフチューをお出しする。

ブラン公爵邸の台所は、もはや厨房で、

雇われていたお屋敷の台所とは比べられないほど広く綺麗で、

エルバート以外の料理を任されている自分より2歳年上の、肩までの髪をくくったメイド、リリーシャ・ペルレと共に、

このような場で、ビーフシチューを作っていいものかと身が竦(すく)んだ。

けれど、白く美しい花は持って来られず、添えることは出来なかったもののなんとか、完成させ、お出ししたが、

下級料理番が作ったビーフシチューなど口に合うとはとても思えない。

「座れ」

「はい、失礼致します」

フェリシアは座らせて頂けることに驚きつつも、

空のお盆を持ったまま、向かいの椅子に座る。

そして、ぴりりと冷ややかな空気が流れる中、

エルバートはビーフシチューをスプーンですくい、口にした。

――ああ。

尽そうと決めたばかりだというのに。

(もうご婚約を破棄され、捨てられてしまう!)

「――――この味だ」

エルバートの言葉にフェリシアは両目を見開く。

(この、味?)

「あ、の?」

「やはりあの屋敷のビーフシチューを作っていたのはお前で合っていたのだな」

「え、わたしが雇われていた屋敷に、通われて?」

「あぁ、その屋敷では軍の会議が常に行われており、その度に私は料理を食べていた」

「けれども、館には男性の料理人を雇い、女性の料理人も試したが、どれも口に合わず、軍師長の仕事のモチベーションも下がっていたのだが」

「お前の料理に興味を持った」

「そして、お前が出す全ての料理は口に合った」

「で、では、自分にご婚約の手紙を届けて下さったのは料理で?」

フェリシアはおそるおそる尋ねる。

「あぁ、料理が美味かったからだ、白く美しい花も皿にいつも添えていた」

エルバートが答え、フェリシアは息を飲む。

皿に添えていた白く美しい花も、

自分が作る料理の味など誰も覚えてはいないだろう、と思っていた。

けれど、覚えてくれていた。

フェリシアは感極まり、涙する。

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